非正規社員を育てる!

日本の労働者における非正規雇用者の割合は年々増加し、2015年にはついに40%の大台を突破しました。これにはバブルの崩壊や働く女性の増加、生活様式や考え方の多様化など様々な理由が挙げられます。

この現象自体が悪いわけではありませんが、日本は長年正社員の教育に重点を置いてきたために非正規雇用者のスキルアップやそれに伴う待遇の改善はあまり考えられていませんでした。また、企業の利益率が下がっていることから社員の教育にかける費用もなかなか捻出できません。

しかし、このままでは企業の生産性が落ちてしまいます。また非正規雇用者自身にとっても成長の機会や昇給に恵まれないまま人生を過ごすことになってしまいます。これは双方にとって大きな問題です。そこで非正規雇用者の現状を分析した上で、なるべく経費をかけないでスキルアップを図る方法を考えてみます。

なぜ非正規雇用者の割合が増加したのか

1、企業の生き残りをかける

バブルの崩壊以降、日本の経済が停滞したために企業を取り巻く環境は大変厳しくなっています。またグローバル化による競争の激化もあって、企業はリストラや店舗の縮小など徹底した経費の削減を余儀なくされています。そのために人件費は大幅にカットしなければならず、比較的賃金の安い非正規雇用者を使わざるを得なくなるのです。

2、女性の社会進出

男女雇用機会均等法が施行されて30年が経ちましたが、この間の女性の社会進出は目覚ましく、かつては男性にしか任されなかった仕事も女性が行うようになりました。一方でこれが非正規雇用者の割合を押し上げた要因にもなっています。

実は女性の就業者のうち、過半数は非正規社員です。中でも福祉や医療の分野ではその傾向が顕著に表れています。さらにスーパーマーケットのレジ打ちなど主婦のパートが増えているのも要因の一つです。

以前と異なって夫の稼ぎが少なくなったために、主婦も家計を助ける必要が出てきたのです。また、「余った時間を仕事に回したい」という心境も見て取れます。

3、実は男性も増えている

驚かれる方もいるかもしれませんが、男性の非正規雇用者もかなり増え、この30年で約3倍になりました。昔なら企業に入れば終身雇用が約束されていましたので、男性と言えば正社員が当たり前でした。

しかし、年功序列・終身雇用が崩れた今は男性の働き方も変わり、男性における非正規雇用者の割合は20%を超えました。好きで正社員にならないのはともかく、新卒の段階で正社員として採用されず、やむなく契約社員等で働く「不本意な非正規雇用者」が増えている点は問題だと言えそうです。

4、派遣社員の増加

最近何かと問題視されている派遣社員も非正規の割合を増加させています。1986年に派遣社員に関する法律が施行され、さらに1995年頃から正社員の仕事を他の社員や外部の人に委託するようになったのも、派遣社員が増えた要因となっています。以前は、派遣社員と言えば専門的な業務をするものでしたが、現在では規制緩和などにより業務の難易度に関係なく派遣社員を雇うケースが増えています。

非正規雇用者の現状

次に、非正規雇用者の就労実態や労働者本人の思いを雇用形態別に見ていきます。

1、パート社員

パートと言えば女性のイメージが強いですが、主婦の方が多いです。先にも登場しましたが、スーパーのレジ打ちなど高度な知識や技術を必要としない仕事内容が多いと言えます。使用者としても比較的やさしい仕事を安い人件費で任せることが出来るので、それなりのメリットはあるでしょう。

しかし、問題もあります。主婦の方は夫の扶養家族となっている場合が多いですから、年収を130万円以下に抑えようとします(130万円の壁)。さらに所得税すら払いたくない人は年収が103万円を超えないようギリギリの所で調整をします(103万円の壁)。中には「雇用保険を払うのもイヤ」と言って、週20時間労働に抑える人も見られます。

これでは企業にとってもマイナスなのは明らかです。「保険料を払いたくないので、今日は休みます」と言われたら困るでしょう。現在、これら2つの壁の見直しが検討されていますが、大いに歓迎されるべきですね。

2、派遣社員

雇用する側にとって派遣社員の最大のメリットは「すぐに人を雇える」点でしょう。社員が退職したためにすぐ欠員を補充せねばならない時、イベントなどで一時的に人数を確保したい時などは派遣社員を雇うケースが増えてきています。

しかし、「要が済めばさよなら」とばかりに次々と派遣社員を雇い止めにする「派遣切り」が問題となっています。特に中高年の派遣切りが深刻ですし、派遣社員が同じ職場で働けるのが3年以内となったため、今後派遣切りがさらに増えそうです。

正社員に昇格させようとする企業も少なく、全体の10%程度です。正規雇用を望んでいるにもかかわらず、企業が労働者の意向を無視するのは問題と言えます。

3、フリーター

好きでフリーター生活を謳歌している人は別として、新卒の際に正社員として採用されず、さらに第二新卒にまで採用が間に合わないと正社員になれる可能性はグンと下がり、そのままフリーター生活を余儀なくされてしまいます。

フリーターは自己啓発や企業の訓練といった機会に恵まれませんから(本人の意識が乏しい場合もあります)、スキルが上がらず生産性に悪影響を及ぼします。こういう人たちは何とか救いたいものですね。

訓練に対する意識は変わってきている

1、企業の意識

冒頭で述べたように非正規雇用者の割合は40%を超えました。この状態で生産性を維持するには彼らにも正社員並みの仕事をしてもらい、賃金もそれに見合った水準にまで高める必要があります。そのこと自体は企業も意識しているのですが、バブルの崩壊以降は利益率が大きく下がっているので、非正規雇用者を訓練するだけの資金が残っていないのです。

特にOff-JTの実施率は極めて低く、派遣社員を訓練している企業(派遣先)は10%ほどにとどまっています。(OJTは90%の企業が実施しています)これでは派遣労働者が業務の知識を身につけることが出来ず、派遣切りが続くことになってしまいます。今後はOff-JTも積極的に実施していかなければなりません。

2、労働者の意識

また、非正規雇用者の意識も少しずつ変わってきています。将来の収入を安定させるべく、自己啓発を行って自分自身を高めようとする姿勢がうかがえます。具体的にはテレビやインターネットを通じた‘自習’が約半分で、会社の勉強会などに参加する人は27%ほどです。中には仕事をしながら専門学校へ通うという熱心な人も6%います。

これだけ自己啓発に励むのも、社会が日々進化していることを実感している証拠で、その流れに乗り遅れると「このままで終わってしまう」という危機感があると考えられます。しかし全体的に見ると、自己啓発をしているのは非正規雇用者の20%程度に過ぎません。これでも増えた方なのですが、「自己啓発をしたいが、時間を確保するのが難しい」と考える人は多いようです。

企業・労働者共に少しずつではありますが、非正規雇用者のスキルをアップさせるべきだと認識し出していると言えます。ですから、そこに立ちはだかる金銭や時間といった障害を取り除く必要があるのです。

雇用保険を活かした訓練の実施

そこで厚生労働省が雇用保険を利用した訓練についてご紹介します。これは「キャリアアップ助成金制度」と呼ばれるもので、有期雇用者に一定時間以上のOJT、Off-JTを実施した企業には、その労働者1人当たり50万円以上の助成金が支給されます。この「助成金」という所がポイントで、申請しても却下される可能性がある「補助金」とは異なり、要件を満たせば必ず支給されます。

OJTとOff-JTの計画も厚生労働省のガイドラインに沿って決めるので、業務にフィットした効率的なカリキュラムを組むことが出来ます。Off-JTについては外部の方を講師に呼ぶことが多いですが、こうした経費も厚生労働省が面倒を見てくれるわけです。

既にこの制度を活用した企業は多く、多くの非正規社員が無理なくスキルアップを果たしています。企業の業務効率が大幅に改善され、売り上げが伸びた所も多く見られます。

この助成金は2016年は420億円も支給されています。「一体どこからこんなお金が出てくるのか。税金か?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。実は雇用保険が財源なのです。雇用保険は失業時に給付するのが一番の目的ですが、こういった労働者の訓練にも適用されます。

 

制度の中身も随時改正されており、今や育児休暇の人も訓練を受けることが出来るのです。「イクメン」の方もどんどん活用してほしいですね。

まとめ

いかがでしたか?これからは企業も非正規雇用者の力を借りなければいけない時代になります。これまではなかなか有効な訓練が無かったのですが、専門家の方たちによる提言をもとにキャリアアップ助成金制度が生まれました。これで企業は費用を負担することなく訓練を実施できます。まだ活用されていない方もおられると思いますが、このチャンスは活かすべきではないでしょうか。日本の将来は「正社員だけでなく、限りなく正社員に近い非正規社員が活躍する」。そんな時代になるのではないでしょうか。

 

 

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。