少ない費用で非正規雇用者を教育するには?

近年日本における労働者の構図は大きく変わり、非正規雇用者が4割を超えるようになりました。これは同時に正社員の減少も意味しますから、企業の生産性が低下する恐れがあります。また非正規雇用者、特に有期雇用者においては教育を受ける機会が与えられず、能力が上がらないといった問題を抱えています。この状況を打破するためには非正規雇用者が増えた背景や現状、そして問題点の解決方法を考える必要があります。

なぜここまで増えたのか

つい30年前には15%程度だった非正規雇用者の割合が40%にまで跳ね上がった要因とは一体何なのでしょうか。これには以下の5つが考えられます。

1、バブルの崩壊による不景気

1990年代に入り、順調に成長してきた日本経済はバブルの崩壊の影響を受け、長い不況時代に突入しました。企業の利益率が大きく落ちる中で人件費は真っ先に削減の対象となります。企業としては当然のように正社員を減らそうとします。これが、非正規雇用者が増えた第一の理由です。

2、簡単にクビにできる

次に、簡単に契約を打ち切れるという理由が挙げられます。経営が行き詰った時、まずクビを切られるのが非正規で働いている人たちです。不景気によっていつ倒産するかわからないという企業が増えています。正社員は簡単に解雇できないだけに、「いつでもクビにできる人員を増やしておこう」という考えが見て取れます。

「簡単に人を解雇できるなんて・・・。人を大切にしていないのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、企業の生き残りのためにはどうしても避けられないという一面があるのも事実です。やはり企業としては倒産のリスクを重視するのでしょう。

3、社会保険料を払わずに済む

非正規雇用者は厚生年金や健康保険などの社会保険に加入していない人が多いです。社会保険料は企業が半分を負担しなければなりません。ですから、その必要のない非正規社員を多く雇うことで人件費をカットしているのです。

中には厚生年金に入らせないように週30時間未満という前提で求人を出している所もあります。多少卑怯にも思えますが、社会保険の負担も軽くはありません。やはり不景気が大きく響いていると言えるでしょう。

4、シフトを組める

これも非正規ならではの魅力だと考える経営者は多いと考えられます。コンビニやスーパーマーケットの店員などは身近な例ですね。レジ打ちや総菜などは忙しい時間帯もあれば割と空いている時間帯もあります。店側としてもこのことを利用し、シフトを上手く組むことで業務の効率化を図っています。

5、労働者もまんざらではない?

一方企業側だけでなく、自ら望んで非正規という形で働いている人もいます。例えばスーパーの店員の多くは主婦の方で、家計を助けるために働くわけですが、子供がいる方がフルタイムで勤務をするには無理があります。パート職であれば1日4~6時間程度でいいですし、勤務時間帯も選ぶことが出来ます。旦那さんの稼ぎが落ちている今、主婦のパートさんは今後も増えるでしょう。

他には、学校を卒業してもあえて正社員を避ける若者が見られます。今時の「ライフスタイルは人それぞれだ」という考えから来ているのでしょうが、どこかに甘えの部分があるような気がします。フルタイムで働き、さらに残業となるとしんどいのは理解できますが、新卒の段階で進んで非正規の道を選ぶのもどうかと思ってしまいます。

 

こうして見ると、立場によっては非正規雇用者もアリと言えそうですが、中には正社員を目指していたのになれず、不本意ながら非正規雇用者として働いている人もいます。その割合はおよそ3割と言われており、こういった人たちは上の「1、」の影響を受けていると考えられます。というのも新卒採用の段階で正社員の枠を絞っているのですから、どうしてもその枠からこぼれる人が出てしまいます。企業の都合で正社員の道を閉ざすのは彼らにとって気の毒です。「不景気だ」と言うのなら、なるべく費用をかけないで正社員を増やす方法を考える必要があります。

現在の非正規社員は?

では、今の日本における非正規雇用者の実態とはどのようなものでしょうか。雇用形態別に見ていきましょう。

1、契約社員

契約社員は非正規雇用の中で最も正社員に近いように思われますが、実は両者の間に明確な違いがあります。正社員は就業規則によって雇用契約が結ばれていますが、契約社員は会社と労働者本人の間で結ばれています。そのため雇用期間の定めがありますし、仕事内容も限定されていることが多いです。

とは言っても専門性の高い仕事を任されることも多く、時間もフルタイムで月給制のケースも見られます。このような点が正社員に近いということなのでしょう。

2、パート社員

前述の通り「パートと言えば主婦」というイメージが強いですが、割合が高いというだけで若年層のパート社員も数多くいます。基本的には正社員に比べて勤務時間が短い社員を指しますが、中にはフルタイムで働いて仕事の内容も正社員と遜色ない人も含まれています。

それにも拘らず、正社員に比べて賃金の差が大きいのは問題です。正社員への転換や昇給を実施している企業もありますが、1時間当たり数十円の昇給ではとても正社員に追い付けません。最近は「同一労働・同一賃金の導入を進めるべきだ」という声が聞かれますが、納得のいく話だと言えるのではないでしょうか。

3、派遣社員

近年‘派遣切り’など何かと話題になる派遣社員ですが、元々は直接雇用関係のない企業への派遣は禁じられていました。しかし、1985年に解禁されて以来派遣社員の数は増加し、1999年に規制を緩和する法律が出来るとさらに数は増え、専門知識を必要としない職種に派遣社員が就くケースも数多く見られます。

しかし派遣切り以外にも勤務先でのパワハラや、問題や同一の職場で3年以上働かせることが出来ないために3年ギリギリのところで雇い止めにするなどといった深刻な問題が存在します。また正社員を目指していたがその夢を叶えられず、やむなく派遣社員として働いている労働者も多いです。

確かに社員が急に辞めた時や繁忙期には派遣社員の力は必要ですが、あまりにもいいように使うのも問題です。

4、アルバイト

アルバイトをしている労働者は非常に多く、学生から年配の人まで年齢層が広く労働者の事情もさまざまです。ただ、高校(場合によっては中学校)を卒業して定職に就かず職場を転々としている‘フリーター’が増えているのが気になります。彼らの多くは偏差値の低い学校を出ており、学習意欲や自己研鑽をしようとする気概が見られません。

これは本人の責任もありますが、格差の拡大に伴って十分な教育を受けさせてもらえなかったという背景も見られます。「日本人の6人に1人の子どもが貧困にあえいでいる」という調査がありますが、最近は塾に行かせることすら出来ない家庭も増えています。学校の授業についていけず、グレてしまう子もいるくらいです。単なる「自己責任」と片付けず、彼らにスキルアップの機会を与えることも考えないといけないでしょう。

 

非正規雇用者の問題点が次々と浮かび上がってきますね。すべてが悪いわけではなくても、解決するべき問題が山積みなのも事実として受け止める必要があります。

本人以外への悪影響とは

ここまでは非正規雇用者本人を中心に問題点を見てきましたが、ここからはそれ以外への懸念事項について述べます。

1、正社員へのしわよせ

冒頭でも述べたように、非正規雇用者の割合はこの30年で15%から40%に増えました。ということは正社員が85%から60%に減ったことになります。ですが、企業全体の仕事量は変わらないか、増えているわけですから1人の正社員にかかる負担は大きく増えます。最近は電通の過労死問題が取り沙汰されていますが、若い正社員の勤務時間が大幅に増えています。中には1年で2500時間も働いている人もいます。単純に計算すると250日×10時間ということになりますから、体や心の負担が大きくなります。政府は「働き方改革」を推進していますが、正社員の負担を減らすには非正規雇用者のスキルアップおよび正社員への転換を積極的にしなければなりません。

2、個人の消費が減る

非正規雇用者の年収は低く、200万円に届いていない人が70%に上ります。さらに100万円以下が32%(いずれも連合などのアンケートによる)と大変深刻です。これでは日々の生活がやっとで、趣味にお金をかけることが出来ません。当然個人の消費は冷え込みます。

日本の経済を活性化させるには個人消費を増やし、市場にお金が出回るようにしなければなりません。しかしこのような状況ではかなり難しいのではないでしょうか。

それはマイナス金利政策が上手くいかないという点にも表れています。もちろん個人消費だけが原因ではありませんが、お金のサイクルが上手くいかないと「デフレ脱却」を本当に成し遂げることが出来ません。給料アップは必須なのです。

3、少子化を加速させる!?

この年収では結婚も簡単ではないでしょう。たとえ出来たとしても、金銭的に子どもを育てる余裕はないと考えられます。これでは日本は「少子高齢化」という問題がますます深刻になります。

現在の出生率は1.45程度ですが、人口を維持するためには平均で2人以上の子どもが必要です。少し回復したとはいえまだまだ目標値に遠く及びません。2050年には総人口が1億人を割り込み、高齢者(65歳以上)の割合が40%近くにまでなるとされています。非正規雇用者は独身者や子どもを持たない夫婦の増加を招き、少子化を加速させることになります。出生率を「V字回復」させるためにも雇用の問題には早急に取り組まねばなりません。

非正規雇用者の教育を実施したいが・・・

こういった数々の問題を解決するには非正規雇用者の教育を積極的に行い、スキルアップを図らねばなりません。そして優秀な人は正社員へ転換する必要があります。企業もそのことは理解していますが、「不景気でお金をかけられない」という理由から非正規雇用者の教育が半ば‘放置’された状態になっています。

現に正社員にOJTやOFF-JTを実施している企業は60%を超えているにもかかわらず、非正規の人たちには30%の企業しか出来ていません。また、教育のノウハウが十分でない企業もあります。特に零細企業にその傾向がよく表れています。さらに人手不足の影響で、社内で教育が出来る人が減っているのも問題です。これらの問題を解決するには、国が積極的な支援をしなければなりません。

助成金制度を積極活用する

ここまでの内容をまとめると、非正規雇用者の問題点として「正社員として働きたくてもそれが出来ない」「本人の生活が苦しくなる」「他の正社員の負担が増える」「少子化や経済の停滞を招き、国家の存亡に関わりかねない」などが挙げられます。そして企業も資金難や人材難といった理由によって教育をしたくでも出来ないというジレンマを抱えている、というものです。

そこで登場したのが、厚生労働省が行っている「キャリアアップ助成金」という制度です。全部で6つのコースが設置されていますが、「人材育成コース」では有期雇用者に対し、ジョブカードを用いて一定時間以上のOJT・OFF-JTを行った企業に助成金を支給するというものです。当然仕事をしながら教育も受けるのですが、その期間の賃金を保障してくれます(場合によっては全額)し、教育の内容も厚生労働省が作成したガイドラインに沿って決めることが出来ます。

これにより有期雇用者の教育に際して企業の負担が大幅に減りますし、教育の方法にも悩まなくて済みます。さらにOFF-JTの一部では、外部の講師による講義もありますので人材難にも対応できます。

一方「正社員化コース」では、文字どおり有期雇用者を正社員に転換するだけで1人当たり50万円(東京都は100万円)もの金額が支給されるのです。1年で最大15人分の申請が認められていますので、優秀な非正規雇用者や人材育成コースで腕を上げた人たちを次々に正社員にすることだって出来るのです。

さらに、最近では育児休暇中の従業員に対する教育も出来るように改定されています。子どもを持つ人たちにもスキルアップの機会を与えてくれるようになったのです。これで企業の利益率に関係なく非正規雇用者の教育が出来るようになりました。

この助成金に関する認知度も高まっており、支給金額はこの3年で5倍以上になりました。今後は再び正社員の数が増えだすことが期待されますし、非正規であっても企業の期待に十分応えられるだけのスキルが身に着くのです。まだこの制度を活用されていない方は是非オススメします。

 

まとめ

非正規雇用者が大きく増えたことで正社員の負担がのしかかり、また非正規雇用者自身の生活が苦しくなることで少子化問題や日本の経済に悪影響を及ぼすことが心配されていました。

キャリアアップ助成金はそれらの問題を解決してくれる‘救世主’と言えます。財源も税金ではなく雇用保険ですので、安心して使うことが出来ます。この助成金によって正社員や優秀な非正規雇用者が増えますので、政府が推進している「働き方改革」を加速させることも出来ます。今後の日本の姿が大きく変わるのではないでしょうか。

 

 

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